こんにちは、Tomoです!
今回は、私が取り組んでいる夤賓閣(いひんかく)のメタバース再現プロジェクトについてお話ししたいと思います。このプロジェクトは、茨城県ひたちなか市にあった歴史的建物「夤賓閣」を、現代の技術を使ってメタバース空間に蘇らせるというものです。夤賓閣は江戸時代、水戸藩の藩主たちが訪れ、詩歌の会や宴が催された格式ある迎賓館であり、文化的にも非常に価値のある建物です。
この再現プロジェクトは、建築資料や模型、そして多くの方々の協力のもと進められてきた長い歴史が背景にあります。私はその「バトン」を次世代に引き継ぎたいという想いから、このプロジェクトに参加し、メタバース上で夤賓閣を再現するという挑戦に取り組んでいます。
この記事では、夤賓閣の魅力や再現プロセス、そしてメタバースで再現する意義について詳しくご紹介します。ぜひ、Clusterアプリを通じて仮想空間で夤賓閣を体験していただければ幸いです!
夤賓閣の再現プロジェクトとは?
夤賓閣(いひんかく)は、茨城県ひたちなか市那珂湊地区にかつて存在した水戸藩の別邸「湊御殿」の一部で、江戸時代に歴代藩主が訪れた迎賓館です。この建物は、宴席や詩歌の会などが開かれ、格式と風格を備えた歴史的な文化遺産でした。現在、夤賓閣の跡地は湊公園として整備されていますが、私たちはこの夤賓閣をメタバース上で再現し、より多くの人々にその文化的価値を体験してもらうことを目指しています。Clusterアプリを使えば、この再現モデルを仮想空間でご覧いただけますので、ぜひ訪れてみてください。
夤賓閣再現プロジェクトに関わるきっかけ
今回のプロジェクトに関わることになったのは、XRエキスパートである土井敬司さんとのご縁がきっかけでした。土井さんのご紹介で夤賓閣復元研究会の三ッ石敏さんと出会い、夤賓閣をメタバースで再現しようという話を伺いました。実は夤賓閣の再現は1990年代から始まり、絵図や史料の収集、平面図や木製模型の制作、さらに3Dモデル化など、数多くの人々の手によって少しずつ形になってきた歴史があります。このような長年にわたる努力の積み重ねを次世代に引き継ぎたいという思いから、私もこのプロジェクトに参加することを決めました。
昨年12月、茨城の学生さんがBlenderで制作したFBXデータを基に、三ッ石さんがUnity経由でClusterにワールドをアップロードしていることを知り、メタバースがここまで身近な形で活用されていること、そして学生さんたちの技術力や行動力に大変感銘を受けました。
当時、私は産業向け高品質VRコンテンツを制作する会社に勤めており、Clusterのメタバースプラットフォームの描画能力がどこまでの表現力を持っているか、特にフォトリアルな表現が可能かどうかに興味がありました。Clusterアカウントを作成し、Houdiniというモデリングツールを使って30万ポリゴンのテストワールドをUnityでClusterへアップロードし、スマホやPC、VR環境での表示テストも行いました。その結果、すべてのデバイスで問題なくメタバース空間内で人と交流できることが確認でき、このプロジェクトへの意欲がさらに高まりました。
再現プロセスの概要
夤賓閣の再現プロジェクトは1990年代から本格的に始まりました。絵図や史料の収集を経て、平面図や立断面図の制作、さらに木製模型が作成されました。その後、3D CGを用いた試みや、学生たちによる3Dモデル制作など、多くの人々の努力によって少しずつ形が整えられてきたと伺っています。
私は今回の再現にあたり、夤賓閣の模型を展示していた茨城県立歴史館を訪れ、そこに展示されていた建築模型に強く惹かれました。その模型は、歴史や考証の積み重ねを形にしたもので、圧倒的な存在感がありました。この模型から得られた情報と、展示終了後に三ッ石さんから提供していただいた写真資料を基に、Houdiniによる3次元建築生成のパイプラインを考案しました。また、伝統建築専門の設計事務所が作成したCAD図や、学生さんのFBXモデルを照らし合わせ、夤賓閣の正確な3D形状を追求していきました。
私が特に苦労したのは、2Dの図面と3Dモデルの間での整合性です。特に屋根の形状に関しては、何が正しいのかを見極めるのに時間がかかりましたが、これらの資料を活用しながら、現実的な夤賓閣の再現を目指しています。
メタバースでの夤賓閣とその意義
このプロジェクトを通じて、メタバースが日本の伝統的建築を広めるための新しい手段であると感じました。Clusterプラットフォームの使用により、夤賓閣の再現モデルは誰でも簡単にアクセスできる状態にあります。Clusterの世界では散策や会話が楽しめるだけでなく、イベントの開催も可能です。このメタバース空間を通じて、夤賓閣の歴史やその美しさを、国内外のより多くの人々に体験していただければと思います。
また、現在のClusterは主にセルルック調が主流ですが、私はフォトリアルに近い表現も可能であると感じています。私がテストしたHoudiniでのモデリングとUnityのBuilt-in Render Pipelineを用いたLightMapTextureのベイク(4096x4096)やポストプロセッシングの組み合わせにより、スマホやPC、VRデバイスでもしっかりと表現できることが確認できました。今後はより細部までこだわった夤賓閣のメタバースモデルを提供し、日本の歴史的遺産を世界に向けて発信したいと考えています。
メタバース空間に多くの人々が集まることで、この夤賓閣再現プロジェクトの意義や価値が広まり、日本の伝統的な遺産がより身近に感じられる機会になることを願っています。
夤賓閣メイキング:制作プロセスの裏側
夤賓閣メタバースモデルの制作にあたっては、さまざまな技術的挑戦と工夫が必要でした。もともと2D図面や絵図といった資料から、3Dモデルを正確に再現するのは容易ではなく、特に屋根や外観の細部については試行錯誤を重ねました。以下、制作の各段階と使用したツールについて詳しくご紹介します。
資料収集と解析
プロジェクトの最初のステップは、夤賓閣に関する豊富な資料を収集し、過去の模型やデジタルデータを解析することから始まりました。茨城県立歴史館で展示されていた夤賓閣の模型を参考にしながら、過去に作成された平面図やCADデータ、学生たちがBlenderで制作したFBXモデルを照らし合わせ、夤賓閣の正確な形状を再現するための基礎を築きました。
3DモデリングとHoudiniの活用
メインの3Dモデリングには、Houdiniという強力なツールを使用しました。Houdiniは、複雑な形状の自動生成や、ノードベースの操作が可能であるため、伝統建築特有の細かいディテールや形状の再現に非常に適していました。具体的には、屋根の曲線や柱の配置など、繊細な構造を再現するためにHoudiniのSOP(Surface Operators)を駆使し、建築としての存在感をもつ3Dモデルを完成させました。
また、モデリングした3DデータをClusterに適応させるために、Unityとの連携も重要なポイントでした。Houdiniで生成した高ポリゴンのモデルをUnityにインポートし、Cluster推奨のBuilt-in Render Pipelineを用いてLightMapTextureをベイク(4096x4096)し、ポストプロセッシングも加えて、最終的な調整を行いました。
リアルタイムレンダリングと最適化
Clusterはスマートフォン、PC、VRといった多様なプラットフォームで閲覧が可能なため、制作時には各デバイスでのパフォーマンスを考慮した最適化が必要でした。高精度のモデルを扱う際には、ポリゴン数を減らす工夫や、ライティングの簡略化を行いながらも、伝統建築の美しさを損なわないよう調整しました。こうした最適化により、スマートフォンでも快適に鑑賞できるメタバース空間が実現しました。
設計図と実物の整合性を探る
展示された夤賓閣の模型の写真や、歴史館で三ッ石さんから提供された3Dスキャンデータなどを参考にしながら、実際の夤賓閣の形状との整合性をチェックしました。建築模型は、歴史的な資料や研究成果の結晶であり、その緻密な形状と造形に驚かされました。このデータに基づき、3Dモデルのディテールや全体的なバランスを整え、夤賓閣の歴史的な美しさを忠実に再現することを目指しました。
夤賓閣の今後の展望
現在の夤賓閣メタバースモデルは、外観の形状を中心に再現した初期段階のものです。まだ内装やインタラクション、背景に設置する小道具や説明パネルなどは整備されていませんが、今後はさらに詳細な調整を進め、建物内部や展示物の追加、来訪者が楽しめるインタラクティブな要素を導入していきたいと考えています。最終的には、夤賓閣の歴史や文化的背景について、訪れる方が自然と学べるような空間を目指しています。
また、今後はClusterでのイベント開催も視野に入れています。夤賓閣の歴史に触れ、文化遺産の魅力を共有する場として、皆さんに自由に探索いただける体験型イベントや、案内付きのツアーも企画中です。こうしたイベントを通じて、夤賓閣再現プロジェクトに対する皆さんからのフィードバックを受け取り、さらに内容をブラッシュアップしていきたいと考えています。
夤賓閣という日本の伝統的建築を、単にCGで再現するだけでなく、その歴史や美しさを多くの人々と共有することを目標としています。ぜひこの機会に、Clusterアプリをダウンロードしてメタバース上の夤賓閣に訪れていただければと思います。皆さんからの応援やご意見、フィードバックを大変ありがたく思いますし、それがこのプロジェクトをより豊かなものにする原動力です。
今後もこの夤賓閣プロジェクトの進展を通じて、メタバースの可能性を探り続け、日本の文化遺産を未来に継承していけるよう努力してまいります。どうぞよろしくお願いいたします。